「栴檀は双葉より芳し」。のちに大きく花開く才能は蕾の頃からその兆しを感じさせるものなんだそうです。
1990年春、蒲池幸子さんはハワイ・モロカイ島の楽園に天使となって舞い降りました。
その翌年、ZARDという音楽ユニットととしてデビュー。


「NOCTURNE」 蒲池幸子さん時代の集大成とも言える彼女の写真集のロケ地だったのがこのモロカイ島。島の西の端にあるカルアコイのコテージに3泊4日したでしょうか。
夢想するような趣きの旋律に包まれた時間、「ノクターン」。彼女がつけたタイトルです。
人付き合いが苦手そうな一面があり、数日ではその距離は縮まるわけがありません。人見知りな私は終始事務的に、そして他人行儀に振る舞っておりました。いまだに、めっちゃ悔やんでます。
撮影は、ハワイでも屈指の大きさ、そして静けさを誇る白い砂浜が全長5キロにも及ぶパポハク・ビーチ。そして、穏やかな時とともに夕陽を眺めるには最高のスポット、カプカへフ・ビーチ(ディキシー・マル・ビーチ)、カルアコイの海岸沿いにあるリゾート。

ほぼ裸や水着になるため、撮影にはカメラマンとヘアメークの女性以外は立ち会えません。したがって送り迎えを除くと暇です。空港隣接のレンタカー会社でダッジのラムバンを借りておりました。

島西部のカルアコイ・ロードは、その美しさで今まで観たどの景色よりも記憶に刻まれました。すれ違う人や車よりも牛が多く、信号は皆無。建物はみな椰子の木よりも低い。

空港にほど近いカウナカカイ。ここに行けば短時間で買い出しは終了。撮影終了のピックアップまでのあいだ勝手し放題、島中をドライブしておりました。

正直いいますと、彼女のことよりもモロカイ島の手つかずの自然とその景色、人の手が入った土地とそうでない土地の絶妙なバランスとそれを望む住民の意思、マーケットで出会った島で暮らす人々に、魅了されておりました。
栴檀の萌芽を見逃していたわけです。

物憂げで伏し目がちの横顔。彼女のイメージです。常に穏やかで観察者であり思索家でありました。ですが、澄んだ大きな眼が無邪気に弾けた笑顔のなかで揺れる一瞬、白い砂浜での撮影休憩のランチ、ダッジのバックミラー、コテージでの打合せ、周りの時は止まる。
デジタル・デバイスが広く普及する以前でしたので、寡黙に過ごすことが多かった蒲池幸子さんは、よくかわいいB5サイズのノートに何かを書き留めていました。
テレビへの露出が極端に少なかったのは、謎めかした売り出し戦略というより、本人の意向だったのかも知れません。アーティストなのに人前が苦手。なんとなくこの数日をともに過ごして感じました。
写真集を発売してからの数ヶ月で、大きく羽ばたいていった坂井泉水さん。彼女が生み出す創作の世界観や心象風景の一端にわずかながらでもこのモロカイ島での4日間の記憶が作用したのであったなら嬉しい限りです。