ワインに限ったことではないのですが、世に形を成すまでには歴史と物語があります。
そのワインは、お墨付きももらうことなく、コンテストで競うこともなく、生産量を増やすこともなく、ただ無欲。しかも、その生産地のテロワール(土壌、気候、地形)に適した主たる品種とは異なっているのです。どこまでへそ曲がりなやつなんでしょう。クラスの中に一人いるかいないかの偏屈者が気になって気になって仕方がない私はこのワインに心酔してしまいました。

La Vendange des Chef
ドメーヌ・デュッグ ラ・ヴァンダンジュ・デ・シェフ
コート・デュ・ローヌのUchanx Massif(ウショー・マシッフ)村で1869年からの歴史があり、全世界へわずか2600本のみ。あのタイユヴァンが常に買付けているローヌ・ワインです。日本には僅かしか流通していません。
このワイン、ローヌなのにメルロー100%。深みのあるガーネット。ほどよい酸味が心地よくなめらかです。メルローの特徴である上品なタンニンがすべてを赦し祝福します。タイユヴァンによると、トリュフや胡椒を帯びたフレーバーを感じるのだそうです。
また、このワイン、フランスの格付けAOC「Appellation d’Origine Controlee」を取得しておりません(IGTもヴァン・ド・ペイも)。そもそも取得する必要性を感じてないのでしょうが、驚きです。


このワイン、最も出来の良いブドウのみ選別し、一切除梗をせず(全房発酵)、コンクリートタンクで熟成するというローヌの伝統を守った醸造法に徹しています。
そしてこのワインには、物語があります。
ドメーヌ・デュッグのある小さな町ウショーが大洪水に見舞われた2002年、デュッグの畑も被害に遭いました。その時、デュッグのワインを取り扱っていたレストランのシェフたちが、店の営業そっちのけで駆けつけました。水害に遭う前にほぼすべての収穫ができたのは、メルローの畑だったとのことです。
収穫の感謝とお礼のためにデュッグのオーナーは、彼らが収穫したメルローだけで造られたスペシャル・キュヴェ、ヴァンダンジュ・デ・シェフをつくりました。ちなみにエチケットの絵はオーナー自らが描いたものです。


もちろん、2002年ヴィンテージは手伝ってくれたレストランにすべて贈られました。ところが、この美談とともに何よりワインの出来の良さが大評判になります。あちこちからオファーが入りますが、年間僅か2600本のみつくり続けられています。
一度手にした業者、レストランは、決して手放すことはなく、新規取引はほぼ不可能と言われるまさに幻のワイン。なんとか入手した2本、飲み頃はそろそろなんだけどな。


